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CoMoKU
聖地 南山城
奈良 CoMoKU / 2023年7月16日

 京都府南部、田畑が広がるのどかな地域「南山城」はかつて山城国と呼ばれていた。木津川がL字型に流れるこのエリアは、古代から交通の要衝として栄え、早くに仏教が流入した。奈良と京都の仏教文化の交差点にあった南山城の寺々は多くの仏教美術を今に伝える。

 南山城の当尾(とうのお)の里にある浄瑠璃寺には、平安時代後期につくられた九体阿弥陀像が祀られている。その五年に及ぶ修理の完了を記念して開催されたのが本特別展「聖地 南山城」である。展覧会には全9体の阿弥陀坐像のうち、その1とその8が出陳されている。両者を見比べていると、群像としての統一感の中にも、それぞれの個性があることに気がつく。複数の工房が手分けしてつくった可能性が高い¹そうだ。親指と人差し指の間の水かきや足の指先の表現など、素人目に見ても、2体の作風は確かに異なるようである。表情から受ける印象も2体で大きく違う。その1は顎を少し上げ、何か思案しているような面持ちなのに対し、その8は、顎を引いて下方に視線をやり、その目で衆生をはっきりと捉えているようにみえる。普段は参拝の対象であるお像を展示照明のもと様々な角度からじっくりと拝することができるのは展覧会の醍醐味の1つである。

 展示をナビゲートする奈良国立博物館公式キャラクター「ざんまいず」も必見だ。ざんまいずは、2019年に開催された「いのりの世界のどうぶつえん」展での登場以来、奈良博の教育普及活動のシンボルとして活躍してきた。仏教美術の入門的展示に現れるイメージがあったため、南山城展で出会えたのは少々驚きだった。しかし、展示の本筋が「入門」にない時こそ、かわいらしいワークシートと平易な展示解説で門戸を広く開ける手段が有効なのかもしれない。今後もざんまいずの働きに期待したい。

参考文献
¹奈良国立博物館『浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展 聖地 南山城 –奈良と京都を結ぶ祈りの至宝–』(2023年)、展示品解説 61 阿弥陀如来坐像、p239

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