札幌の中心街から少し離れたところにある円山動物園は、北海道内で最も古い動物園である。
ゾウ舎
園では、8月にアジアゾウの赤ちゃんが誕生した。9月15日から始まった一般公開には多くの人が駆けつけ、ゾウ舎の外に長い列をつくっていた。アジアゾウの出産は道内初のことだそうだから納得の賑わいだ。ゾウ舎は、ミャンマーからアジアゾウ4頭を迎え、2019年にオープンしたばかりの施設だ。屋内運動場を取り囲む観客通路は階段状になっているため、人だかりがあっても後方から運動場をのぞくことができる。
親についてまわる姿が印象的な赤ちゃん
幼稚園の先生が「上の方から見た方が見やすいよ」と園児たちに声をかける
プール越しに運動場を臨む
天井から吊るされたネットから乾草を食べる親ゾウ
舎内壁面の解説パネルの中でも力が入っていたのが、ゾウの生息環境の再現や福祉向上のために行われている取り組みの紹介だ。動物そのものを観察することで得られる理解と、動物を取り巻く環境・設備を媒介とした理解とが合わさる妙味がある。
「円山動物園がゾウのためにできること」
「アジアゾウにおけるエンリッチメントの取り組み」(部分)
天井に取り付けられた模型はインパクトがある
円山動物園は、ゾウの準間接飼育を採用している。飼育員とゾウの接触を柵越しに制限することで、不慮の事故を防げるほか、ゾウにかかるストレスを軽減することができるという。今回の赤ちゃん誕生は、準間接飼育下では全国初の事例だった。そんな記念すべき赤ちゃんの姿を一目見ることができて嬉しかった。
飼育員はこのPCウォール越しに飼育を行う
ホッキョクグマ館
アジアゾウ同様、ホッキョクグマも独立した「ホッキョクグマ館」という設備を持つ。ホッキョクグマの飼育場としては国内最大級の規模だそうだ。
情景的な写真を用いて解説に視線をひきつける。
アーチ状の水槽があり、展示への没入感が高い。
「ホッキョクグマの獲物」という文脈でアザラシを傍らに展示する。
(※居住空間は分離されている)
観客の目に触れない場所に寝室があるらしい。
我々の視線が動物たちにとってストレスになっていないだろうかと時折思うことがあるので、非公開スペースがあるのは有り難い。
ホッキョクグマ館の傍らにある放飼場にて
同じところを行ったり来たりしている。
館内の解説を引用すると、ホッキョクグマの行動圏は、200平方km(円山動物園1000個分)〜96万平方km(日本の国土面積2.5個分)にまで及ぶという。そう考えると、どんなに広い放飼場もホッキョクグマにとっては非常に狭いものに感じられるだろう。
ホッキョクグマ館の屋上から見た放飼場
寒帯館
寒帯館では、中国・ロシアの亜寒帯に生息するアムールトラ、中央アジアの高山地帯に生息するユキヒョウを展示する。
昨年浜松市動物園からやってきたオスのアムールトラ、トート
アムールトラは地面に横たわって寝ていた。「お昼寝中はしずかにしてあげてね」の張り紙から推察するに、ここがお気に入りの寝床なのだろう。至近距離でじっくりと観察することができて感激した。
驚くほどきれいな毛!
丁寧に毛繕いしているのだろう
途中で寝返りをうった!
屠体給餌の紹介
広まってほしいが、下処理が大変だと聞く
一方、ユキヒョウはとても高い岩の上で寝ており、体色もあって見つけるのに少し時間がかかった。彼らのカモフラージュ技術を身をもって感じることができた。
ユキヒョウの家系図
円山動物園は1987年に日本で初めてユキヒョウの繁殖に成功した。現在も円山動物園にゆかりのあるユキヒョウが国内各地で飼育されているという。(個人的に思い入れのある、「ユーリ」(旭山動物園)の父が円山動物園で飼育されていたと知り、胸が熱くなった。)動物園では、しばしば繁殖のため動物の貸し借りを行う。そのため異なる動物園で飼育されている個体同士の血が繋がっていることはよくある。こうした血縁関係や貸し借りの関係から、まだ見ぬ個体や動物園に対する興味がわくのも動物園の魅力のひとつだと思う。(この感覚は、他球団に移籍した選手が新天地で活躍することを祈る古巣ファンの心境に例えられる。)